Deodato – Prelude: From Jazz-Funk to Hip-Hop

Deodato – Prelude: From Jazz-Funk to Hip-Hop

1枚のレコードから、サンプリングのルーツを辿る。

レコードを聴く楽しみは、収録された音楽そのものだけではない。

聴き覚えのあるドラムの響き。ヒップホップの名曲で耳にしたフレーズ。あるいは、映画のワンシーンを思い出させる壮大なメロディ。

その音がどこから来たのかを知ることで、一枚のレコードは、別の時代やカルチャーへとつながる入口になる。

「The Innerspace Magazine」は、音楽、アート、書籍、デザイン、そして時代を越えて受け継がれるオブジェクトを通じて、カルチャーの奥にある背景やつながりを探るジャーナル。

表面的なトレンドを追うのではなく、作品が生まれた背景や、そこから派生した表現、そして現在まで残り続ける価値に目を向ける。ひとつの発見から、まだ知らない世界へと視野を広げていく。

本連載では、サンプリングを手がかりに、音楽が時代やジャンルを越えて受け継がれていく過程を辿る。

第1回は、ブラジル出身のキーボーディスト/アレンジャー、Eumir Deodato(エウミール・デオダート)が1973年に発表したアルバム『Prelude』。

ジャズ、ファンク、クラシックが交差するこの作品には、ヒップホップのプロデューサーたちが魅了されてきたグルーヴが刻まれている。

01. クラシックを、ジャズ・ファンクへ。

1970年代初頭、ジャズはロックやファンク、ラテン音楽などの要素を取り込みながら、新たなサウンドへと広がっていた。

その流れを象徴する作品のひとつが『Prelude』。

Deodatoはブラジルでキャリアを築いた後、アメリカへ進出。アレンジャー、キーボーディストとして経験を積み、プロデューサー Creed Taylor が率いるCTI Recordsから本作を発表した。

アルバムの幕開けを飾るのは、Richard Strauss(リヒャルト・シュトラウス)の交響詩「Also sprach Zarathustra(ツァラトゥストラはかく語りき)」を大胆に再構築した「Also Sprach Zarathustra (2001)」。

この楽曲のモチーフは、Stanley Kubrick監督の映画『2001年宇宙の旅』でも広く知られるようになったもの。Deodatoはその壮大なテーマを、エレクトリック・ピアノ、ホーン、ギター、ベース、ドラム、パーカッションが絡み合うダイナミックなジャズ・ファンクへと変貌させた。

クラシックの旋律を忠実に再現するのではなく、リズムとグルーヴを前面に押し出す。

そのアプローチは、異なる時代の音楽を素材として捉え、新しい表現へと組み替えていくサンプリングの感覚にも通じています。

「Also Sprach Zarathustra (2001)」はヒットを記録し、Deodatoは1974年のグラミー賞で最優秀ポップ・インストゥルメンタル演奏賞を受賞。

02. サンプリング・カルチャーの入口、「September 13」。

『Prelude』をヒップホップの視点から聴くなら、ぜひ注目したいのがアルバム後半に収録された「September 13」。

曲が始まった瞬間、耳に飛び込んでくるドラムブレイク。

Billy Cobhamの力強いドラミングが生み出す、乾いたアタックと躍動感。その演奏は、楽曲の一部でありながら、独立したビートの素材としても魅力的な存在感を放っている。

サンプリングにおいて、ドラムブレイクは重要な役割を果たしてきました。

プロデューサーは楽曲の中から印象的な数秒を切り出し、ループさせたり、別の音と組み合わせたりすることで、新しいビートを生み出す。

その素材は、必ずしも最初からヒップホップのために作られた音楽である必要はない。むしろ、ジャズやファンクの演奏に潜むグルーヴを発見し、自分の作品の中で再解釈することに、サンプリングの面白さがある。

「September 13」は、そんな楽しみ方を教えてくれる一曲。

 

03. Pete Rock、Camp Loへと受け継がれたグルーヴ。

「September 13」のドラムブレイクは、1990年代のヒップホップ作品にも受け継がれている。

代表的な例が、Pete Rock & C.L. Smoothの「In the House」のイントロ、そしてCamp Loの「Park Joint」だ。

Pete Rockは、ソウル、ジャズ、ファンクなどから素材を掘り起こし、独特の質感とスウィングを持つビートへと再構築してきたプロデューサー。原曲の演奏が持つ空気感を活かしながら、ラップのための新しい音楽へと変えていく手法は、90年代ヒップホップを語るうえで欠かせない。

一方、Camp Loの「Park Joint」は、Ski Beatzによるプロダクションと、グループ特有の洒脱なスタイルが印象的な一曲。

ここで興味深いのは、1970年代のジャズ・ファンクと1990年代のヒップホップが、単なる年代の違いを超えて、ひとつのドラムブレイクによってつながっていること。

当時の演奏者が生み出したグルーヴは、後のプロデューサーによって発見され、別の作品の一部として新たな生命を与えられた。

原曲を知ってからヒップホップを聴く。あるいは、ヒップホップをきっかけに原曲へ遡る。

どちらの入口からでも、音楽の聴こえ方は少しずつ変わっていく。

04. サンプリングは、過去の音楽との対話。

サンプリングは、過去の音楽をそのまま引用するだけの技術ではない。

どの部分を選ぶのか。どこでループさせるのか。何を重ね、何を取り除くのか。

その選択には、プロデューサーの耳と美意識が表れる。

一度は別の作品の中で役割を終えたように思える音が、数十年後、まったく異なる文脈で再び輝く。それは、レコードが単なる音源の入れ物ではなく、時代を越えて価値観やアイデアを受け渡すメディアであることを示している。

『Prelude』には、「September 13」だけでなく、夏の空気を感じさせる「Spirit of Summer」や、クラシックを独自に解釈した「Prelude to the Afternoon of a Faun」など、多彩な楽曲が収録されている。

サンプリングの元ネタを探すために針を落とすことも、アルバム全体を通して聴くことも、どちらもこのレコードの楽しみ方だ。

一枚のレコードから、別のレコードへ。

ひとつのドラムブレイクから、ひとつのヒップホップ・クラシックへ。

そして、その先にあるアーティストや時代、スタジオ、演奏者の物語へ。

「The Innerspace Magazine」では、音楽を単に消費するものとしてではなく、背景にあるカルチャーごと楽しめるものとして紹介していきたい。

Deodatoの『Prelude』は、そのための格好の一枚だ。

次にPete Rock & C.L. SmoothやCamp Loを聴くときは、ぜひ「September 13」を思い出してほしい。

いつものビートの奥に、1970年代のスタジオで生まれた演奏の息遣いが聴こえてくるかもしれない。


Record Notes

Artist: Deodato
Album: Prelude
Label: CTI Records
Original release: 1973
Format: LP
Genre: Jazz / Funk / Fusion
Featured track: “September 13”
Listen for: The opening drum break and Billy Cobham's groove

The record featured in this article is available at Vesper & Co.

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